「住宅ローンは借金なんだから、余裕があるなら早く返したほうがいいですよね?」

気持ちはよく分かります。何千万円もの借金を抱えているのは、決して気分のいいものではありません。貯金が増えてきたら、少しでもローンを減らして、肩の荷を下ろしたくなるものです。

でも、ちょっと考えてみてください。そのお金、本当に今、銀行に返してしまっていいんでしょうか。

最近はNISAという選択肢もあります。住宅ローンを返すべきか、それとも返さずに投資へ回すべきか。どちらにも理屈があるので、迷うのも当然です。

私の基本的な考え方は、まず十分な現金を確保する。次に、住宅ローンの金利や残りの返済期間を確認する。そのうえで、NISAと繰上返済の優先順位を決める。 というものです。

以前のように住宅ローン金利が極めて低い時代なら、長期の資産運用を優先することに、かなり説得力がありました。でも、今は事情が変わってきています。

住宅ローンは、もう超低金利ではない

2024年3月、日銀はマイナス金利政策を解除しました。それから段階的に利上げが続き、2026年9月には政策金利が1.25%まで上昇しています。

これを受けて、銀行の住宅ローン金利も上がり始めました。

2026年10月時点で、大手銀行の変動型住宅ローンの最優遇金利は、おおむね1.2〜1.7%程度。数年前まで0.3〜0.5%台の商品が珍しくなかったことを考えると、ずいぶん景色が変わりました。

もっとも、これは新規借入の金利の話です。すでに借りている人の金利は、契約内容や銀行によって異なります。

そして、ここが大事です。

日銀の利上げと、皆さんの住宅ローン金利の上昇は、必ずしも同じタイミングではありません。

変動金利は、銀行の短期プライムレートなどを基準に見直されることが多く、実際の返済への反映には時間差があります。2026年9月の追加利上げについても、今後反映される銀行があります。

つまり、今の返済額が変わっていないからといって、利上げの影響を受けていないとは限らないんです。

では、金利が上がると、どれくらい負担が増えるのでしょうか。

例えば、住宅ローン残高3,000万円、残りの返済期間30年、元利均等返済という条件で考えてみます。

金利が年1%なら、毎月の返済額は約9万6,500円。年2%なら約11万900円です。

差は毎月約1万4,400円。年間では約17万3,000円になります。

これは、それぞれの金利が残り30年間続くと仮定した単純な比較で、実際の変動金利ローンでは金利変更の時期や5年ルールなどによって返済額の動きが変わります。

それでも、金利が1%違うだけで家計への影響がこれほど大きいことは、知っておいてほしいんです。

「5年間、返済額は変わらない」の落とし穴

ここで、変動金利の住宅ローンを借りている人に、ぜひ確認してほしいことがあります。

「5年ルール」と「125%ルール」です。

5年ルールとは、金利が変わっても、原則として毎月の返済額を5年間は変えない仕組みです。

125%ルールは、5年後に返済額を見直す場合でも、それまでの返済額の1.25倍を上限にする仕組みです。

「なんだ、それなら安心じゃないか」と思いませんか?

でも、残念ながらそういう話ではありません。

例えば、毎月10万円返済していて、そのうち7万円が元金、3万円が利息だったとします。

金利が上がっても返済額が10万円のままなら、利息が4万円に増えた分、元金の返済は6万円に減ります。

払っている金額は同じ。でも、借金の減り方が遅くなっているんです。

さらに金利が大きく上がれば、毎月の返済額を利息が上回り、未払利息が発生する可能性もあります。

つまり、5年ルールは金利上昇から家計を守ってくれる仕組みではなく、毎月の返済額の急増を抑える仕組みなんです。

ちなみに、すべての銀行がこのルールを採用しているわけではありません。ソニー銀行など、金利の見直しに合わせて返済額も見直す銀行があります。

自分の住宅ローンがどういう契約なのか。ここは一度、返済予定表を確認してみてください。

それでも、繰上返済の前に現金を確認する

さて、金利が上がってきたのなら、やっぱり早く繰上返済するべきでしょうか。

私は、そう簡単には決めません。

例えば、銀行預金が500万円あるとします。住宅ローンの残高はまだ3,000万円。そこで400万円を繰上返済することにしました。

借金が一気に400万円も減る。いいことのように思えますよね。

でも、ちょっと待ってください。

500万円から400万円を返したら、手元に残る現金は100万円です。

もし翌月、会社の業績が悪化して収入が減ったら? 子どもの教育費が予定よりかさんだら? 家族が病気になったら?

住宅ローンは400万円減りました。でも、その400万円はもう銀行から簡単には返してもらえません。

私なら、こういう繰上返済はしません。

家計にとって大事なのは、借金の残高を減らすことだけではありません。何が起きても、生活を続けられるだけの現金を持っておくことも同じくらい重要です。

繰上返済の前に、返したあとの預金残高を見る。

金利が上がっても、この順番だけは変えたくありません。

金利2%と、運用利回り5%を比べてみる

では、生活に必要な現金は十分に確保できているとしましょう。

ここで初めて、繰上返済とNISAを数字で比較する意味が出てきます。

例えば、住宅ローン金利が年2%で、余剰資金が400万円あるとします。

400万円を繰上返済すれば、返済した元本に対応する利息が減ります。単純な年換算では、当初約8万円分です。実際の節約額は返済方法や時期によって変わりますが、将来の利息負担を減らせることには変わりありません。

一方、400万円をNISAで株式投資に回し、仮に年5%で運用できたら、1年間で20万円の利益です。

8万円と20万円。

こうして並べると、NISAのほうが得に見えませんか?

でも、ここには大きな落とし穴があります。

住宅ローン金利2%と、株式投資の期待リターン5%は、同じ種類の数字ではないんです。

繰上返済は、将来の利息負担を減らすという効果が見込めます。変動金利なら節約額は将来の金利にも左右されますが、返済した元本に対しては、その後の金利上昇リスクもなくなります。

一方、株式投資の5%は、あくまで想定したリターンです。毎年5%ずつ増えると約束されているわけではありません。

翌年、30%下がることだってあります。400万円なら120万円の含み損です。

それでも10年、20年と持ち続けられるでしょうか。

だから「ローン金利が2%、株式の期待リターンが5%なら、差の3%は確実に儲かる」という計算は成り立ちません。

金利が上がれば、繰上返済で節約できる利息も増えます。つまり、利上げ局面では、以前より繰上返済の魅力が高まるわけです。

ただし、だからといって、すぐにNISAをやめて繰上返済するという話でもありません。

繰上返済は確実性を重視する選択。NISAは価格変動を引き受けながら、長期的な資産成長を目指す選択。

ここで比べるべきなのは、単純な利回りの大小だけではないんです。

住宅ローン控除という、もう一つの計算

さらに、この比較を少し複雑にしているのが住宅ローン控除です。

住宅ローン控除は、一定の条件を満たすと、年末の住宅ローン残高などをもとに計算した金額を、所得税や一部の住民税から差し引ける制度です。

2026年の制度でも、控除率は基本的に0.7%。ただし、適用される借入限度額や控除期間は、入居した年や住宅の種類などによって異なります。

この制度の適用を受けている人が繰上返済すると、どうなるでしょうか。

借金は減ります。当然、支払う利息も減ります。でも、年末のローン残高が減ることで、住宅ローン控除の金額まで小さくなる場合があるんです。

例えば、住宅ローン金利が1.5%で、控除率が0.7%だったとします。

ここで「実質金利は0.8%だから、繰上返済する必要はない」と単純に考えるのは危険です。

住宅ローン控除には借入限度額があり、そもそも自分が納める税額によっては、計算上の控除額を全額使えないこともあります。

また、繰上返済の方法にも注意が必要です。

返済期間を短くする「期間短縮型」は一般に利息の軽減効果が大きいものの、期間を短縮しすぎると住宅ローン控除の要件を満たさなくなる場合があります。

「住宅ローン控除があるうちは絶対に返さないほうがいい」という意見も、「金利が上がったから今すぐ返すべき」という意見も、少々乱暴です。

結局、自分の金利と控除額を確認しなければ、答えは出せないんです。

忘れがちな、団信の存在

そして、意外と見落とされるのが団体信用生命保険、いわゆる団信です。

多くの住宅ローンには団信が付いています。契約で定められた死亡や高度障害などの事由が生じた場合に、保険金で住宅ローンの残債が返済される仕組みです。

つまり、住宅ローンは単なる借金ではなく、一定の保障と一体になっている場合があるんです。

例えば、400万円を繰上返済したあとに、万が一のことが起きたらどうでしょう。

繰上返済していなければ、その400万円は手元の金融資産として家族に残っていたかもしれません。そして、団信の保障対象になれば、住宅ローンの残債は保険で返済されます。

もちろん、団信の保障内容や家族の状況によって話は変わります。だから繰上返済が損だ、と言いたいわけではありません。

ただ、借金を早く返すことが、必ずしも家族にとって一番有利とは限らないということは、知っておいてほしいんです。

住宅ローンの判断には、資産運用だけでなく、保険や家族の生活設計まで関わってきます。

金利上昇時代、どんな人が繰上返済を優先するべきか

では、結局どう判断するべきでしょうか。

私は、まず住宅ローンの金利と返済余力を確認します。

例えば、変動金利がすでに2%前後になっていて、これ以上金利が上がると毎月の家計が苦しくなる人。あるいは、定年退職が近づいていて、収入が減る前にローンを整理しておきたい人。

こうした人にとっては、繰上返済の優先順位は高いと思います。

金利が上がる不安を抱えながら、毎月ギリギリの返済を続ける。その状態で「株式の期待リターンのほうが高いから」と投資を増やしても、家計全体として健全とは言えません。

一方、住宅ローンの金利がまだ低く、毎月の返済に余裕がある。住宅ローン控除も受けられていて、十分な現金も確保できている。

それなら、慌てて繰上返済をせず、NISAで長期投資を続けるのも合理的な選択です。

ただし、変動金利で借りている人は、現在の金利だけで判断しないでください。

例えば、金利があと0.5%上がったら? 1%上がったら?

そのとき毎月の返済額がどう変わるのか。家計にどれくらい余裕が残るのか。そこまで考えておく必要があります。

変動金利は、最初の金利が低い代わりに、将来の金利上昇リスクを借り手が引き受ける仕組みです。

言い換えれば、変動金利を選ぶということは、将来の金利がどう動いても返済を続けられる家計をつくる責任も引き受けるということなんです。

繰上返済だけでなく、固定金利への変更や借り換えという選択肢もあります。ただし、固定金利も上昇しているため、金利差や諸費用を含めて比較する必要があります。

どうしても迷うなら、半分ずつ

それでも、決めきれないことはあります。

「早く借金を減らしたい。でも、NISAの将来のリターンも捨てがたい」

分かります。そもそも未来の相場も金利も正確には分からないんですから、迷うのは当然です。

そんなとき、私は無理に一つの正解を選ばなくてもいいと思っています。

例えば、生活に必要な現金を除いて、自由に使える余剰資金が200万円あるとします。

それなら、100万円はNISAでの運用に回し、残りの100万円は繰上返済に使う。そういう選択だってあるんです。

もちろん、これが数学的に一番儲かる方法だとは限りません。金利が高く、返済に余裕がない人なら、繰上返済を優先したほうがいい場合もあります。

でも、資産運用は、計算上の利益だけを追い求めればいいわけではありません。

借金が減る安心感も欲しい。将来のために資産も育てたい。その両方を大事にしてもいいんです。

私は、投資でもよく「迷ったら半分」という考え方を使っています。

どちらか一方にすべてを賭ける必要はありません。完璧な正解を探して動けなくなるくらいなら、自分が納得して続けられる配分を選べばいい。

ただし、半分にするのは、あくまで必要な現金を確保したあとの余剰資金です。

ここだけは、間違えないでください。

お金を増やすことと、借金を減らすこと

住宅ローンの繰上返済とNISA。どちらが正解なのか。

私は、全員に共通する答えはないと思っています。

金利が何%なのか。今後どれくらい上昇しても返済できるのか。住宅ローン控除はあと何年残っているのか。団信にはどんな保障があるのか。子どもの教育費はいつ必要になるのか。

そして、返済したあと、手元にいくら現金が残るのか。

同じ年収で、同じ住宅ローン残高の人でも、こうした条件が違えば、答えは変わります。

ただ、私が大切にしている順番は明確です。

まず生活を守るための現金を確保する。そして、住宅ローンの負担と金利上昇リスクを確認する。そのうえで、長期投資と繰上返済の配分を考える。

超低金利だった頃と違い、これからは繰上返済という選択肢を、もっと真剣に検討する必要があると思っています。

繰上返済をすれば、借金は減ります。でも、そのお金は簡単には取り戻せません。

NISAなら金融資産として持ち続けられますが、必要なときに値下がりしている可能性があります。

だからこそ、金額の大小や期待リターンだけでなく、家計全体を見て判断する必要があるんです。

住宅ローンの目的は、借金をできるだけ早くゼロにすることではありません。NISAの目的だって、非課税枠を最速で埋めることではありません。

どちらも、これからの人生を、少しでも豊かにするための手段です。

借金を減らすために、人生の選択肢まで減らしてしまっては、本末転倒じゃないですか。

私は、そう思っています。


※金利・制度に関する記述は2026年10月時点の情報です。住宅ローン控除や団体信用生命保険の適用条件、繰上返済の効果は契約内容や個別の状況によって異なります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、NISAでの投資には元本割れのリスクがあります。

最後に、自分の場合も確認してみてください。

読み終えたら、いまの自分に当てはめて、チェックしてみてください。

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