「NISAを始めたいんですが、貯金はいくら残しておけばいいですか?」

これ、よくある質問です。100万円あれば十分なのか。300万円くらい必要なのか。それとも、ある程度貯金ができるまでは投資を始めないほうがいいのか。

結論から言います。誰にでも当てはまる金額はありません。

ただし、判断するための基準はあります。投資を始める前に、生活が困らないだけの現金を確保すること。そして、そのお金を除いた余剰資金で投資することです。

当たり前の話に聞こえるかもしれません。でも、ここを間違えると、せっかく始めたNISAが、家計を苦しめる原因になります。

現金は、何も生み出さないお金なのか

最近は「貯金より投資」という言葉をよく聞きます。

物価は上がり続けています。銀行に100万円を預けていても、10年後に同じ100万円で買えるものが減っているかもしれない。現金だけを持ち続けることにもリスクがあるのは、間違いありません。

だからといって、生活費までNISAに突っ込むのは別の話です。

例えば、生活費を除いた貯金が100万円ある人が、その100万円を全部投資したとします。翌年、株式市場が30%下落しました。資産は70万円です。

そこに追い打ちをかけるように、冷蔵庫が壊れた。車も故障した。会社の業績が悪化して、ボーナスまで減った。

どうしますか?

必要なお金が手元になければ、投資信託を売るしかありません。しかも、株価が下がっている最中にです。

「長期投資が大事」と言われても、冷蔵庫は待ってくれませんからね。

これが、現金を持たずに投資することの怖さです。株価が下がること自体よりも、下がったときに、売りたくない資産を売らなければならなくなること。 私はこちらのほうが、よほど怖いと思っています。

現金は、3つに分けて考える

では、実際にいくら残すべきなのか。

私は、手元のお金を3つに分けて考えることをおすすめしています。

一つ目は、生活防衛資金です。

失業した、病気で働けなくなった、収入が急に減った。そんなときにも生活を続けるためのお金です。

目安としては、会社員なら生活費の3〜6ヶ月分。収入が不安定なフリーランスや自営業の方なら、6〜12ヶ月分程度を考えてもいいでしょう。

もちろん、これは絶対的な基準ではありません。共働きなのか、片働きなのか。子どもがいるのか。住宅ローンを抱えているのか。家庭によって必要な金額は変わります。

大事なのは、年収ではなく、実際に生活を維持するために必要な支出から計算することです。

二つ目は、近い将来に使う予定のお金。

例えば、2年後の子どもの入学費用。車の買い替え。住宅の頭金。こうした使い道が決まっているお金も、基本的には現金で確保しておきます。

「NISAなら、必要になったら売ればいいでしょ?」

確かに売却はできます。でも、必要になった日に株価がどうなっているかは、誰にも分かりません。入学金の支払いが来月なのに、株価が30%下がっているかもしれない。

使う時期が決まっているお金を、不確実な相場に預ける必要はありません。

そして三つ目が、当面使う予定のないお金です。

ここでようやく、NISAの出番です。10年、20年と使わずに置いておけるお金なら、株式などの値動きを引き受けながら、長期で育てる選択肢が生まれます。

具体的に、350万円の貯金があったら?

数字で考えてみましょう。

例えば、毎月の生活費が25万円で、銀行預金が350万円ある家庭を想定します。

生活防衛資金を6ヶ月分とすると、150万円。さらに、2年以内に必要になる教育費や車の買い替え費用として、100万円を確保しておくとします。

すると、必要な現金は合計250万円。

350万円から250万円を差し引いた、残りの100万円が投資を検討できるお金になります。

つまり、「貯金が350万円あるから、350万円投資できる」ではないんです。

もちろん、これは一つの計算例です。家庭によって必要な生活防衛資金も、予定している支出も違います。

ただ、こうやってお金の役割を分けるだけで、NISAにいくら入れるかという悩みは、ずいぶん整理できるはずです。

最初の金額は、怖さで決めていい

さて。必要な現金を確保して、投資できるお金が100万円あると分かりました。

では、明日100万円を全部NISAに入れるべきでしょうか。

私は、そうは思いません。

理屈では長期投資が有利だと分かっていても、実際に100万円が70万円に減ったら、怖くなってしまう人はいるはずです。

そして、これは性格が弱いからではありません。人間は、利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みを強く感じる生き物だからです。

私自身、知識では分かっていても、暴落の恐怖に負けて失敗してきました。だから今は、自分の感情を過信しないようにしています。

そこで私がおすすめしたいのが、迷ったら半分という方法です。

投資できるお金が100万円あっても、怖ければ最初は50万円でいい。残りの50万円は、時期を分けて少しずつ投資していく方法もあります。

毎月3万円の積立が不安なら、まずは1万5,000円で始めてもいいんです。

ただし、半分にするのは、あくまで生活防衛資金や近い将来の支出を除いた後のお金です。必要な現金まで半分にして投資する、という意味ではありません。

NISAには年間最大360万円、生涯で1,800万円という非課税投資枠があります。でも、その枠を埋めることが人生の目的ではありません。

SNSを見れば、最速で1,800万円を埋める方法なんて話も出てきます。

でも、他人の入金速度に合わせて、自分の家計を危険にさらしてどうするんでしょう。

最初の金額は、怖さで決めていい。

無理なく続けられる金額から始めて、家計に余裕ができたら増やしていく。それで十分です。

キャッシュ・イズ・キング

投資の世界には「キャッシュ・イズ・キング」という言葉があります。

現金は、株式のように大きなリターンを生むものではありません。インフレによって購買力が低下することもあります。

でも、現金には、利回りだけでは測れない価値があります。

収入が途絶えても、慌てずに済む。相場が暴落しても、生活のために投資信託を売らずに済む。思いがけない出費があっても、選択肢を失わずに済む。

つまり現金は、投資の邪魔をするものではなく、長期投資を続けるための土台なんです。

NISAは便利な制度です。でも、投資そのもののリスクを消してくれる制度ではありません。

だから私は、現金か投資か、という二者択一で考える必要はないと思っています。

生活を守るお金は、現金で持つ。長い時間をかけて育てるお金は、投資に回す。それぞれに役割があるんです。

投資で大切なのは、どれだけ早くお金を入れたかではありません。途中で降りずに、続けられるかどうかです。

そして、そのために必要な現金は、決して無駄なお金ではありません。

まずは通帳を開いて、自分の生活を守るのに必要な金額を計算してみてください。

NISAにいくら入れるかを考えるのは、その後で十分です。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。生活防衛資金の目安は個々の収入・支出・家族構成等によって異なり、NISAでの投資には元本割れのリスクがあります。

最後に、自分の場合も確認してみてください。

読み終えたら、いまの自分に当てはめて、チェックしてみてください。

← 金融コラム一覧へ戻る